塩を送るのが敵

「読書をするのは大事」って良く言うじゃないですか。でも「何故?」っていう問いに上手く答えている人ってあまりいないと思うんですよね。
自分でサイトを作って、頭の中の考えを文章にまとめるのって本当に大変だなと実感するんですよ。特に僕がやってる事って「職人の勘」の部分を文章化してるわけですからね。言ってみればアナログをデジタル化してるんですよ。これが「読書をする事」の肝だと思うんですよね。文章を読むと言うのは「アナログのものをデジタル化した過程を理解する」っていう事で、これが出来ずにただ鵜呑みにするだけならあまり読書の意味もないと思うんですよね。amazonのレビューとかで(自主規制)なお方の「文字の羅列」を見るとつくづくそう感じる。
ちなみに「アナログをアナログのまま伝えている」典型的な例が空手の型です。あれは「言語化出来ないものを身体に染み込ませて伝承する」っていう意味があるんですよ。




上杉謙信の「敵に塩を送る」という逸話、とても有名ですよね。
これ、「憎しみ戦い合う相手にも困ったら手を差し伸べる良い人」「ボランティア精神」「義理と人情」「優しさ」「けなげ」「夢」「努力友情勝利」「歳末助け合い運動」「あなたが塩を送る事であなたも、そして地球も美しく・・・」等の気持ち悪いとっても素敵なニュアンスで語られる事が多いですけど、僕は「意味としては最終的に合ってるけどニュアンスは全然違うんじゃないの?」とかねがね思っているんですよ。


まずですね。この逸話には「武田領を攻めたい今川家が、北条家と協力して武田家に塩が運ばれないようにした(武田領は海に面していないため塩が取れない)」という背景があった訳ですけど、謙信にとっては一番の敵は北条なんですよ。この人は上杉家を継いで漏れなく関東管領の地位をプレゼントされて、律儀にもその関東を手にしなければならないと思ってしまっていたはずなので。
だから別に信玄はにっくき敵と言うほどの物じゃなかったはずなんですよね。
ちなみに数年前にNHKで「川中島の合戦は本気で戦っていた?それとも演技だった?」という、長年日本人に語り継がれ愛されてきた逸話をプロレス呼ばわりする超画期的な川中島合戦ヤオガチ論争をやっていて物凄く面白かったんですけど、キツツキ戦法とか伝えられている戦いは地形的にかなり無理があって、しかも謙信も信玄も本気で戦う気はなかったニュアンスの文献が多く発見されているというのですよ。
僕個人としては、
領民の不満をガス抜きするためにトップ同士だけが密通してプロレス(真剣勝負のフリ)をやる。ただしもちろん相手の領土を取れれば文句はないのだから隙を見せればシュート(密約を裏切って本気で攻撃)する。もちろんそんな本気の戦争にも耐えられるだけの技量をお互い持っていることが前提の「演技」。
という極上のプロレスが戦国時代に行われていた方が遥かに夢があると思うのですけどそれはまあともかく。
ようするに謙信から観て武田領は潰す意思はなかった土地だと僕は思うんですよ。


もし仮にですね。
武田領を奪う意思があるとしたら。なおさら塩を送ると思うんですよね。
だって、奪い取った土地の領民を全滅させちゃったら取り損ですからね。領民ごと奪い取る事になる訳だから自分に対して恨み骨髄状態の領民なんて奪い取っちゃったら危なくてしょうがない。
傍若無人なイメージのある織田信長だって、それまで難癖つけて関所の通行料を取っていた既得権益の塊の金の亡者の宗教勢力を破壊して庶民に住みやすい世界に変えたから民衆に受け入れられて統一がなされた訳で。


こういう関係が本当の「敵」だと思うんですよね。

何が言いたいかというと、喧嘩慣れしてない人が多過ぎて、喧嘩相手を完全破壊しなければならないと思っている人が多過ぎるのが今の世の中の問題点なんじゃないかなあと。売る方も相手を支配下に置いた時の事を考え無さ過ぎだし、買う方も脊髄反射で逆ギレし過ぎですよね。
そういうのって子供だなあと思うんですよ。
今はどうか知らないけど、以前子供向けの絵本がキ・チ・ガ・イの暴力とっても良識的なプロ市民の方々のありがたい御注意で、「桃太郎は最後にごめんなさいした鬼と和解して末永く仲良く暮らしましためでたしめでたし」みたいな発狂したピースフルなお話に変えられた事があるらしいんですけど、そういうお話にしてしまうと児童心理学上とっても悪影響があるらしいんですね。「悪い事をした鬼が罰を与えられずに今でもどこかでのうのうと生き延びている!!」と言うのがもう子供にはダメらしくて。
だから子供相手には「敵は破壊すべきもの」で良いと思うんですよ。現実的に自分の身を守れる強さがないうちはその思考も重要だと思うし。


でも、社会に出てからの「敵」というのはまさに「塩を送るべき相手」なんじゃないかなと思うんですよね。ニュース番組などを見て「つくづくガキばっかりで萎えるなあ。こんなの観るくらいだったらアニメ観てた方がましだよ」と僕がいつも思うのもこういう事なんだろうなあと。