工藤公康:僕の野球塾


野球が何で日本にこんなに根付いているかというと、色々理由はあるでしょうけど一番大きいのは「とりあえずほとんどの人が子供の頃に野球をやった経験があるから」だと思うんですよね。男女限らず。僕が子供の頃は友達の妹とかが普通に混じって野球やってたし。


じゃあ「何で経験があるのか(=日本人には野球が向いているのか)」っていう事なんだけど、日本人は股関節が柔らかいからみたいですよ。実際和室の生活すると胡坐とかかくから股関節が柔らかくなるし、物凄く低い姿勢で行動する事を求められるんですよね。椅子生活の実家から、床生活に移った時に凄くこれを強く感じた。


まあそれはいいとして、工藤公康っていう人は何でも野球に結び付けて考える人なんだなあ。全て野球中心で動いている人なんだなあということが良く分かる本。
中でも散々強調されている事は「意味を考えて行動する」と言う事。
「タオルを使ってシャドーピッチングをする」というオーソドックスな練習方法も、
→軽すぎると肩を痛めるからタオルの先を結んでみる。→抵抗を大きくして、不利をスムースにする事が目的だから、タオルの代わりにプラスチックのバットを使ってみる。と、小学生の時点で自分で思いついて工夫した練習をしていたそうです。まあ小学生の時点で「雑誌のピッチングフォーム分解写真の解説は嘘ばっかり」と見抜いて自分で全て論理的に考えて応用していたと言うから恐ろしい。今の情報まみれの社会の子ならまだしも、年齢的には「テレビや新聞に嘘が書いてある訳ない」と信じ込んでいた世代だろうに。
「10mの距離でコントロールできないんだから、もっと下がって投げてもコントロールなんてつく訳がない」として、近い距離で完全にコントロールして投げられるようになってから徐々に距離を伸ばして言ったエピソードも凄く納得できますね。


でもこれ、もちろん本人の類い稀な資質があってこその話ではあるけど、父親とか指導者に恵まれてますよねえ。何のヒントもなしに「ただ考えろ」って言ってもどんどん間違えていくだけですから。普通は。僕が「パン職人が『技術は教わる物じゃない、観て盗む物だ』って言うのは、単なる能無しがばれるのが怖いだけの逃げ発言」って言ってるのは、初めて入店した時にいきなりクロワッサンの生地を投げつけられて「クロワッサン三つ折!!早くやれ!!」っていきなりキレられたからなんですよ。そこで「観て無いのにどうやって観て憶える事ができるんですか?」って率直な意見を述べたらその時点で干されたんですよね。大抵の指導者が「自分で考えろ」って言うのは、言ってる本人がまともな考えを持っていないからだから性質が悪い。


まあその逆に、教わる側があまりにも考え無しな事も多いですけどね。僕は自分で製パン技術のサイトを持ってますけど、「こういうパンを作りたくてこういう作り方をしてみたけど、こういう失敗をしてしまいました」っていう質問には理由と改善方法を教えてあげられるんですけどね。考え無しにいきなり「答えを教えろ」っていう人間も多い。そんなもんただで答えてやる義務ねえよ。しかも、前者は大体パン作りを趣味にしている主婦の方で、後者の馬鹿は大抵職人。もうね、アホかと。


あと工藤さんは「楽して勝つことばかり考えていた」っておっしゃってるんですけど、これも大共感しますね。はっきり言って、パン作りって言うのは「どれだけ余計な事をしないか」「どれだけ工程を管理できるか」が全てと言って良いんですよ。流行りの食材だの高価な材料だの面白い新製品だのそんなものは一切必要なし。だって主食なんだもん。ご飯の味が毎回違っていたら料理人困るじゃねえか。それ以前にパンって手をかければかけるほど不味くなっていくんですよ。基本的には。だから「苦労すればするほど良い」と思っている人間は単なる個人の性癖が変質者なだけであって職人失格ですね。もちろん工藤さんも書かれている通り「手抜きとか適当とか言う意味の楽ではなく」、余計な無駄な事はしないと言う意味での「楽」ですけどね。


そんな感じで野球についての経験を書かれた本なんですけど、一箇所子育てについて書かれた部分で超興味深い部分があって、工藤さんはお子さんが「キレる」と言う言葉を使うと物凄く怒るそうです。僕も以前から「キレるっていう言葉は本来『自分をコントロールできない恥ずかしい人間です』って言う意味なのに、何で格好良いという意味で使ったり、免罪符として使ったりする人間ばっかりなんだろう」と不快だったんですけど、工藤さんも同じ考えの様でこれは心強いですね。
他にも「ビミョー」と言う言葉も会話にならないから使わせないそうです。個人的にはここに是非「キモい」と言う言葉も入れて欲しい。
この「ビミョー」「キモい」って本当に体の良い逃げ言葉ですよねえ。自分に答えを出す知能が無いからまともな言葉を使わずに逃げているだけなのに相手が悪いかの印象を与えて逃げる事ができる美味しい言葉。こういう言葉を使う人間は「全く敬意を持てない人間」だと言う事をしっかり学校で教育して欲しいね。