中坊公平


一方こっちは超面白いです。「面白いなんて不謹慎!感動しろ!」とか言われるんだろうけど、ご本人はきっと庶民が面白がってくれる方が嬉しかろうと思うのであえて「面白い」と言いたい。
ご本人が書かれているのだから当然とは言え「現場主義の迫力」が滲み出ている。おそらく校正の手もほとんど入ってないのではないかと。「(駄菓子を食べて)私はお坊ちゃん育ちのボンボンなんで、こういうところに本当の美味さがあるのではないかと気付いた」「私は男女とか親戚関係とかの事件はダメ」「今悪い奴というと水島広雄という事になるでしょうけど」なんて超率直である意味隙だらけな発言が次々出てくるあたりに、この人の「弁護士は町のお医者さんであるべき」という哲学が垣間見えると思う。
今まで手がけたケースについて語られていて、
(1)鉄工所の和議申し立ての件>戦時中学徒動員で工員として働いた経験があるので、工場に入ってほとんど経営者のように一緒に働いて工場の事情を熟知した事で債権者から信頼された→現場こそ全てである事を知る。
(2)新幹線開通による立ち退きの件>座り込み&情報公開で現状を世間に知ってもらうことで、裁判という手段を使わなくてもディスクローズする事が弱者にとって唯一の挑戦の仕方であることを知る。
(3)タクシードライバードライアイス窒息死事件>過失を認めさせ多額の慰謝料を勝ち取る事が出来たが、裁判中に未亡人が再婚し、夫婦が慰謝料を全額持って行った為(法律的には何の問題もなし)息子を事故で失った母親には何も保障をしてやれなかった→大後悔。
(4)看護学校生が数千万円の呉服の購入契約を結ばされた事件>被害者の精神的負担を考え、早期決着のために裁判を起こさず契約の無効を通知&信販会社には被害額の損失の穴埋めとして病院から保証金を出させる形で決着。
(5)豊田商事豊田商事は社員に「詐欺をさせる」という雇用契約をしているのだからこの雇用契約は無効→社員の給料の源泉徴収は給与所得ではなく雑所得だから源泉徴収の義務はないはずだから返還請求できる。と主張して国税局から金を引き出し、被害者への保障に当てる。
といった感じで、弁護士ってこんなに柔軟に戦える立場の仕事なのか・・・と率直に驚きますね。「法律を最大限に解釈して顧客に利益を与える」という意味では不撓不屈の主人公の人と同じなのかもしれないけど、どちらに感情移入できるかといえば完璧に中坊さん。もちろん職種がまるで違うんだけど、「ルールそのものではなく、そのルールによって人がどう行動するかが大事」という視点を持っておられる方だったことが良く分かる。
どんな仕事でも同じだと思うんですけど、小手先だけの教科書丸暗記言葉なんて通用しないんですよね。実体験して自分の血となり肉となった言葉で話せる人の言葉って実に単純明快。住専問題も、もちろん誰もが「税金で損失を穴埋めするなんて納得いかない」っていう事はわかるんですけど「住専七社の倒産は国民には何の責任もない。にも関わらず税金を投入すると言う事は罪なくして人を罰する事になる。それは司法の世界ではあってはならない事」って言われるともうそれ以上の言葉ないですよね。「自分は司法に籍を置く者」っていう立脚点からしか観ないからここまで完璧な答えが出てくるんですよね。よし。中坊先生のおかげで心置きなく石原慎太郎を「無法者」呼ばわりできるな。