マネーボール


非常に話題になった一冊ですね。本としては確かに面白いです。
簡単に説明すると
(1)野球選手は活躍すると高い金を出してくれるチームに移籍してしまう。
(2)だから金の無いチームは「年俸が安い選手」で強いチームを作らなければならない。
という事で、一般的に信じられているデータではなく、誰も気付いていないけど有効なデータを下に選手を集め試合運びをする事で貧乏チームを毎年ぶっちぎりの成績で優勝するチームにしたGMの物語。という事です。
当時としては異色だった「とにかく出塁率が高い選手重視」という戦術なんですけど、面白いなと思ったのはマイナーリーグの選手に『四球を選ばないとメジャー昇格させないぞ』と指示を出すと全員必ず出塁率は上がる」ということですね。ここに野球の本質があるんだと思う。例え相手がフォアボール狙いだとしても、ストライクゾーンだけで勝負するのは難しいのだなと。
あと、とにかく攻撃重視のチーム作りなんだけど、守備を重視しない理由として「エラーという記録は記録員の主観に基づく物であって客観的な数字ではないからデータとして不備がある」っていう明快な答えがあるのが面白いですね。これってほとんど気付かれてなかったんじゃないですかね。まさにコロンブスの卵。でもフォアボールも「審判の主観に基づくデータ」ではあるんだよなあ。
まあそれを考えなくても守備って試合を使われるごとに上手くなっていきますからね。それなら攻撃重視の方が効率が良いのでしょう。
とにかく「攻撃ではひたすらに『塁』を獲得する。守備ではひたすらに『塁』を奪わせない」という超シンプル思考。革命的みたいに言われてるけど一番シンプルだと思うんですけどね。「ベース」ボールなんだから「ベース」をとにかく奪えば良いわけで。「貧乏球団が科学的データに基づいて金持ち球団を打ち破る痛快ノンフィクション」みたいに読まれてるみたいだけど僕はむしろ「初心忘れるべからず」的なニュアンスで読んでました。


ただこの本、後半に行くにしたがってどんどんつまらなくなっていきます。つまらないというか、「人間を対象にした投資話」になっていくので興味が無くなっていく。元々の発想は「株式投資のやり方を参考に、まだ売れていないけどこれから伸びる株(選手)を見つけて最高値で売り抜く」みたいなところから来てるんですよね。人を金づるとしてしか見ていない点ではどっちもどっちなのでなおさら上記のような痛快さは無い。当然この人のやり方では試合内容は絶望的につまらないはずなので誉めちぎるのはどうなんだろうなと思います。
まあ、「選手というのはどんどん入れ替わっていくもの」という前提で「システムさえ作ってしまえば選手などただの駒に過ぎない」っていう発想は良いと思います。これは絶対に正しい。そこを考えるとむしろ高校野球などを観る時に参考になる考え方なのかも。高校野球って絶対に選手は3年経ったら出て行ってしまうわけですからね。「そんなわけねえだろ。高校野球といえば送りバントばっかりの野球じゃねえか」と思われるかもしれないけど、それはあくまで一発勝負のトーナメントだからこそ。チーム作りとしては成功している監督は大抵超攻撃型野球を選択している筈。つまり個々の試合の戦術面では手堅い送りバントを多用しても止むを得ないとしても戦略的には間違いなく攻撃中心でチーム作りをしているはず。


こういう「まだ世間が気付いていない価値観で、低評価を受けているモノを好評価する」っていう事に興味ある人なら、日本人なら競馬やれば良いと思うんですけどね。僕は日本の競馬新聞の馬柱(要するに競走馬の成績表)は世界最強のデータ表だと思ってますから。膨大なデータをこれだけ簡潔に一覧表にしたデータなんて他にないでしょ。明らかにネットの方が便利で正確かつ最新だってわかっていてもみんな絶対新聞は買うんだから。