旧ユーゴ三部作




僕は頭が悪いのでどんだけ勉強しても結局の所この旧ユーゴ諸国の何がどうなってるのかはさっぱり理解できないんですけど(まあカタログ的にウンチクを並べる事はできますけど)、もう理解する事は諦めて、色んな立場の方々が様々な切り口で語っている事を比べてみようと。


まず有名な「戦争広告代理店」。これは面白いです。「面白がるなんて破廉恥な!!」という風紀委員のお怒りの声は無視して単純に「ノンフィクション作品」としてかなり面白いです。
とはいえ別にびっくりはしなかったんですよね。政治家に演出家がついているなんて事は周知の事実だし。各国首脳やガリ国連事務総長(当時)とかの心境を裏読みする面白さがある。「金の切れ目が縁の切れ目」というオチを観て、昔子沢山夫婦物のほのぼの人気ドキュメンタリー番組が「夫婦離婚」というまさかの衝撃的展開でドボンしたのを思い出した。


・・・何ていう事を書くと「戦争で不幸な目に遭っている方々を描いた本なのに破廉恥な!!」と激怒する風紀委員の気持ちもわからなくはないんですけど、知ろうが知るまいが世界に不幸な方々が溢れているのは事実。


一方その「風紀委員」的なのが木村元彦氏。フリーライターの氏が現地を丹念に取材した本。
確かに生々しく現状が伝わる。とても素晴らしいと思う。だけど、ちょっと嫌な匂いがするんだよなあ。
巻末で「戦争広告代理店」を批判しているんですよね。「民衆への視座も批判精神もない。戦争をネタとしか思っていないのか」と言っているんですけど、フリーライターとNHKの仲の人じゃそりゃ違うにきまってると思うんですよ。
http://d.hatena.ne.jp/c-mad/20080427/p1#c以前別の内容でも書いたけど「マスコミは正義の味方であるべきであって、正義そのものになってはならない」というのが僕の動かぬ持論なんですよ。高木徹氏がルーダー・フィン社の行動をチクったとしても、それで民族紛争の負の連鎖が断ち切れるとは到底思えない。
あと、「難民の実態を知らない人に事実を知ってもらう」という事が趣旨のはずなのに妙に特権意識が鼻につくんですよね。いつの間にか「自分はとても知識があるけど他の人間はとても無知」という事を吹聴しているようにしか見えなくなってくるんですよ。なんの断わりもなしに「ベオ」って書いてあって、しばらく悩んで「あぁ。ベオグラードの略称か」と気付いたり不親切な部分が多い。まあこの辺は編集者の責任ですけど。
とりあえず木村君には吉本隆明氏の名言「自分だけがストイックな方向に突き進んでいく分には構わないんですけど、突き詰めていけばいくほど、他人がそうじゃ無い事が気に食わなくなっていきましてね」を捧げたいと思います。


で、最後に緒方貞子氏。僕の印象としては「この人明治の元勲そのままみたいな人だなあ」という感じです。さすが犬養毅の孫。こういう「貴族として純粋培養した存在」みたいな人って良くも悪くも必要なんだろうなあと思いました。余談だけど、よく世襲議員が問題視されますけど僕は世襲自体は構わないと思うんですよね。むしろ今の無意味な二院制は止めて衆議院貴族院の二院制にすればいいのにとすら思います。こういう生まれつきの約束されたエリートを「社会勉強のため一般企業で経験を積ませる」みたいなのって意味無いと思うんですよね。それより純粋培養のエリート作って「お前に逃げ道はない」って教育した方がましだと思います。今作るなら元老院になるんですかね。元凶of the老害
話がずれた。
実は上の2冊の本を最初読んだ時の感想はほぼ真逆というか、レビューなどで読まれるような感想に近い物だったんですよ。それでも何か木村氏の本は引っかかる物があるんだよなあと思っていた。
それがこの本を読んで感想が変わったんですけど、「民族浄化」と言う言葉はUNHCR国連難民高等弁務官事務所)のメンデルーセ特使がボスニアの惨状を世界に伝えるために持ち出した概念なんですね。そして緒方貞子氏は救援物資運搬のために軍隊も普通に使う。あと緒方貞子氏は「(限定的な効果的な物なら)空爆は仕方ないんじゃないかなと思ったこともありますね」とも語っているんですよ。
この、清濁併せ呑んで「とにかく難民の人権保護最優先。そして世界に知ってもらうためには何でもやる」姿勢こそがリアルだと思うんですよ。僕の価値観では、高木徹氏の方が木村元彦氏より緒方貞子さんに近いと思うんですよね。


まあいずれも読む必要がある本だなと思います。