新社会人になる方へ

成人式からも一週間過ぎ4月まではまだ遠い時期に実に不釣合いなタイトルですが。


昨年後半はあまりサイトの更新ができなかったので反省の意味も込めて新年から続けて2更新をいたしました。
http://www1.ocn.ne.jp/~ribot/
一つは「クロワッサンの作り方のコツ」。もう一つは「もやしもんに関するコラム」です。
クロワッサンの作り方のコツに関しては以前から度々要望があった物をまとめました。素人の方々との質問のやり取りの中で初めて気付けた事もたくさんあって、改めて「サイトを作って良かった」と思わせてくれるコラムです。正直言って「製パン知識の読み物」としてはかなりのレベルであろうと思います。職人では気づけない、家庭で焼いている方だけがぶつかるであろう壁についてもヒントを乗せているので、是非お読み頂ければと思います。希望としては「是非書籍化を!」という声が巻き上がって欲しい(笑)。
もうひとつは、もやしもん単行本7巻発売記念コラムですね。改めて読んでも俺の文章は面白いなあ。自画自賛はみっともないけど本当に面白いんだから仕方がない。
毎回書いてますけどパンを作った事のない人が読んでも面白い内容を意識しているので、色んな方の感想をお待ちしております。「生物と無生物のあいだ」とかああいう本が流行るなら、もっと興味を持ってもらえる人が増えてもいい内容だと思うんだけどなあ。


さて、ついでに以前御相談を頂いた方の事をちょっと思い出したので、それに絡めて「新人の心構え」という感じの話をちょっと書きたいと思います。


僕が初めてパン職人として入ったお店はちょっと問題がある所でしてね。両隣の飲食店が一斉に害虫駆除を入れたせいもあって一日中害虫と害獣駆除ばっかりしているような店で、おまけに店長が社会的に問題があって突然退職する事になってもうどうしようもない状態だったんですね。
その時点では僕は「途中で投げ出すのは良く無い事だ」という思いでいっぱいだったんですけど、今にして思うと職人として技術を学びたいなら即辞めて他の店で一から学んだ方が絶対良かった筈なんですよね。「諦める」というのは語源的には「明らめる=明らかにする」という事なのだそうで、「何が正しいのかを正しく理解する」という意味なんですよね。「現実を思い知らされる」という意味では一般的な用法に近いんですけど決してネガティヴな意味だけではない。
よく「人生にリセットボタンはない」っていうけど、僕は「人生にはリセットボタンがあるんだから、固執しないでガンガンリセットした方がいい。ただしセーブするのを忘れるな」という方が正しいと思うんですよね。後戻りできない所まで追い詰められるくらいならリセットした方が絶対に良い。ただし自分の経験を全て無に帰すようなリセットの仕方はしない方がいい。これが僕が遠回りしすぎて取り返しつかない事になっちゃった経験から言いたい事(笑)。ただし酷い人生の方が絶対に楽しいです。これもまた真実。


もうひとつ職人としての心構えは「リズムが大事」という事ですね。テンポ良く仕事が進めば大抵の人は上手く仕事が出来る。その環境を作るのが上司。今は必死に部下の脚を引っ張る上司が流行りみたいですけど。
パン職人はことさらこのリズムが大事でですね。

これは僕が店舗開発をしていた頃の資料のごく一部ですけど、フランスパンだけでもこれだけ工程があるんですね。それが何十種類も同時進行する訳で、とにかく膨大な仕事量を瞬時に順序付けてまわさなければならないんですよ。「パン職人が出来れば100人のプロジェクトを仕切る事が出来る」と言われているらしいですけど現実の職人のレベルはともかくまあ納得の仕事量なんですね。
これを捌くために、僕はとにかく事前の準備を徹底させたんですよね。生地の仕込みの粉や材料は当然として普通は前計量はしない卵や牛乳なんかも徹底的にきっちり事前に計量して、生産量も窯に入る量ピッタリで常にフル回転できるような量しか作らずとにかく小回りが利く様な環境にしました。もちろん生産量にあわせて生地の量を決めると非常に細かい事になってしまうんですけど、そこは逆に「余った物の活用法」を徹底する事でクリアしました。ここら辺は前に書いた因数分解の要領で。


共通する事は「視野を広く持とう」という事ですね。僕の場合は休日が友人と会わない仕事を選択してしまったので余計に遠回(ryでしたけど、僕は若者が工夫しながら頑張るのを観るのが嫌いではないのでまああれだ頑張れよ。