判断

東京は寒いですよー。
先日書いた、http://d.hatena.ne.jp/c-mad/20100122「地球の気温の変動を意図的にデータ捏造した」事件。「クライメットゲート事件」と呼ばれ、日本では黙殺されたものの世界的には結構話題になったそうです。勉強不足な物で極最近知りました。
先週の「博士の異常な鼎談」のゲスト:武田邦彦氏の話ではじめて知ったんですけど、このクライメットゲート事件、地球温暖化説推奨派の教授のメールが流出した事件で、その内容が「CO2の影響による地球温暖化説会議派の教授が死んだ。ざまあみろ。」みたいな品性下劣な内容の物が多かったので「エリートの下品な本性がばれちゃった事件」という意味でウォーターゲート事件に絡めたネーミングだそうです。竹田氏の本はトンデモ本扱いされる事も多いですけど、番組で観る限りでは「CO2は温暖化の原因ではない」なんて一言も言ってないし、「COP15がトーンダウンしたのは真冬のコペンハーゲンなんかで開催するから大寒波が来て温暖化に説得力がなくなるからだ。真剣に温暖化を止めたいなら真夏のサウジアラビアで会議をやれ。」等の発言から観ても温暖化説そのものの否定というイメージはないですね。単純に「科学的に筋の通ってない感情的なエコロジスト」に対して警鐘を鳴らしているというか。


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さて。
私はそもそもパン職人・パン生地開発専門家な訳で、パン関係の話題があるとやはりちょっと目が行ってしまう訳なんですけど、ちょっと前の日経ビジネスモスバーガーの事を取り上げていました。
私はほとんど外食をしないのですが、モスバーガーは2003年に「ニッポンのバーガー:匠味」と銘打った高級ハンバーガー路線に転じて失敗。その後方針転換して昨年3月には黒字転換したそうです。言われてみれば、モスバーガーが大仰な宣伝を打ちまくっていたのにあっという間に火が消えたなあと言う気もする。
時代背景を考えると、確かに高級路線を捨てて値段の安いラインナップに転換したとは言え他のハンバーガーショップよりは明らかに高級路線な訳で、「安かろう悪かろう」の商品しか売れなくなった時代背景を考えるとこの黒字転換は素晴らしい。素直に「優秀な経営陣による正しい采配が導いた成功」とジャッジすべきでしょう。あ、一応言っておきますけど私はモスバーガーとは何の利害関係もないですよ(笑)。
記事によると、
「外食産業の規模縮小の煽りを受け2001年に赤字転落し、他のハンバーガーショップとの差別化を明瞭に出すために店舗拡大路線を止め高級路線を選択」した事により
「通常のハンバーガーの調理時間は6分程度であるのに対して、最高級商品は専用の蓋をかぶせて蒸し焼きにしたり玉ねぎのソテーなど調理に20分を要し、30分以上も客を待たせる等クレーム多発して店舗が悲鳴。」
そこで作業工程やメニューを減らし、現場の負担を減らす業務改善策を打った事が奏効。手を打ったのが2007年で、世界的恐慌を物ともせず2年足らずで黒字転換したのだから、この戦略の正しさを否定する事は難しいでしょう。
もちろん「工程を簡単にする」と言っても材料をケチるとか手抜きをすると言う訳ではない。ミーとパティに使用する肉の種類や厚みなどを徹底的に改良し、単純な焼き方でも以下に通常品と違う味が引き出せるかを研究」したと言う事です。開発担当としては「蒸し焼きにした方が絶対に美味しい」けど、「現場でできないのでは意味がない。」という開発の方向性の統一がなされていた様子。
これはですね。私がさかんに唱えてきた事に重なる部分が非常に大きいんですよ。大きく分けて3点ほど。
まず一つ。
「現場の負担は可能な限り軽い方が良い。」
これがですね。難しいんですよ。現実に「工程を楽にして品質を向上させる」と言う技術的な難易度以上に「楽をするなんてダメ!苦労しなきゃダメ!若者はダメ!」という(放送禁止用語老害を黙らせる事が難しいんですよ。
特に職人は。
「楽に美味しい物を作るより、苦労して不味い物を作る方が偉い。何故なら苦労しているから。」と本気で考えている(放送禁止用語)が世の中に多過ぎるんですよね。「こだわり」と言えば何でも許されると思ってるのかなんだか知らないですけど、「ほうれん草のソテーは、冷凍品ではなくその日の内に仕入れた物をソテーして・・・ホワイトソースは毎回手作りして・・・」とかパンとは関係ない部分にやたらと手間をかけて、肝心のパンにはとても手が回らずぶくぶくに発酵しまくってもう酸っぱい匂いしちゃってる・・・っていう冗談みたいな事が現実に起きている訳ですよ。
だから私は「自分がパン屋をやるなら、食パンやフランスパンなどの食事パンしか売らないパン屋をやる」って常々言っているんですよ。パンって「主食」なんだから、毎日変わらず安定した品質で美味しくある事が最大の顧客サービスじゃなきゃおかしいと思うんですよね。「工程をぶっ壊してまで毎月新製品を出したり、珍しいアイテムが100種類無ければいけない」というなら、この世からパン屋なんて無くなったって構わないと思います。まあ自分の話はともかく、現場の負担を軽くする事で黒字転換できることを証明したモスバーガーはもっと注目されるべきなのは確実でしょうね。
二つ目。
「本部での開発に徹底的に注力した」
最前線でのフットワークが最大限軽減できるように、本部でのハンバーグやチーズの商品開発に徹底的に注力したんですよね。商品開発化がどれだけ徹夜して苦労しようと、客としては知った事ではないですから(笑)。そういう部分では、それこそ金を出してでも苦労する事に意義があるんですよ。ちゃんと苦労すべき部分の履き違えなかったセンスは驚嘆すべき。本当は驚嘆どころか極当たり前の事ではあるんですけど、コレをちゃんと理解できてる人って、自分は今までほとんど見た事がないですからね。
三つ目。
「特別な技術を要さない、普遍的な方法でのハンバーガーの美味しい焼き方にこだわった。」
パン職人なら、例えばクロワッサンというものを作る時に、その構造や特長の全てを理解し尽くして、全く同じ材料、同じ道具を使用していても素人には追いつけない物を作る知識があってこそ「職人」なわけですよ。ハンバーガー屋なんだから、特別な技術の持ち主ではないバイトでも水準以上の商品を作れるパティを用意して、水準以上の商品を作る技術を「言語化」してマニュアルにできなければいけないんですよね。それでも、やはり製品開発の人間が作れば素人では追いつけない物が作れる。
そういう「言語化できない職人の勘」の部分と、「手順の意味をちゃんと言語化できる程に理解できている知能」が無ければ職人とはいえないんですよ。


と、いうわけで、モスバーガーは今の日本の企業が学ぶべき点が一杯詰まったロールモデルと言うべき存在だと思うんですけど、個人的に疑問なのは「これだけクレバーな経営陣が、何故に『現場に負担をかけまくって会社そのものを傾かせかねない程の高級商品路線』と言う愚策を一時は選んでしまったのか」という事なんですよね。
全くの個人的妄想ですけど「怪しげなコンサルタントが入って、間違ったスーパーヴァイズをした」というあたりじゃないかと思うんですよねえ。同じ号で特集されている「銀行が『再建』放棄した」という泉精機製作所の倒産の話を読むと、ダメな指揮官のダメな戦略ほど恐ろしい物はないのだなと痛感しますね。コンサルタントのアーンスト・アンド・ヤング、アドバイザーの大和證券SMBC、そして何よりメガバンク・・・こいつらロクな(自主規制)と思いますね。あの世で(自主規制)。ていうかこんな奴ら一族郎党(自主規制)。もう「メガバンク」と「銀行」は違う法律で規制して別物扱いしなきゃダメだね。


何十年ぶりかに、モスバーガー行ってみようかなあ。