カフカ:掟破りの雪崩式「掟の前で」

今年のゴールデンウィークは実に穏やかですねえ。素晴らしい。
これだけ天気が良いと自転車でどこか出かけたい気持ちなんですけど、盗まれてから買う気なくなっちゃったんですよねえ。アパートの自転車置き場に鍵をかけておいてある自転車を盗まれちゃうんじゃあどうにもならん。今自分の職場内にいる10人中3人が、同様に住宅内の自転車置き場に鍵をかけておいた自転車を盗まれているんですよ。一方で相変らず駅前の放置自転車は必死に接収してますが。
放置自転車は鍵を破壊して「御自由にお使い下さい。あと(自主規制)人の方は御自由にパクって下さい。」とすれば、善良な市民が被害を受ける事がないのではないかと。もう(自主規制)内閣誕生以来(自主規制)人がやりたい放題過ぎて。この国のモラル完全崩壊だよ。


さて、以前に紹介した光文社古典新訳文庫ですが、先日丘沢静也氏のカフカ:変身/掟の前でを読みました。

これは面白いです!カフカは短くて疲れないくせに何度読んでも面白いのでコストパフォーマンス高し。この新訳版は、普段読書なんかしない方に特にお奨めしたいです。安くて薄いし(笑)。


で、肝心の「新訳」部分の評価なんですけど、私はドイツ語なんてさっぱり分からないので言語で読めるわけではないので、「日本語に変換して上手くニュアンスを伝えられているか」等と言う観点での評価はできません。
特にこの作品は訳者が「ピリオド奏法(=最近のクラシックの流行で、現代的、炎症者:指揮者の個人的解釈を加えず作曲当時の演奏方法を忠実に再現する事を心がけるスタイル)で訳した」と語っている以上、そこが重要といわれるとそれまでなんですけど、「原語&原作執筆当時の時代背景や作者の心情」等に精通している人なら最初から原語で読んでおけばよい訳で、amazonのレビューのような評価の仕方は単なるウンチクひけらかしでしかないと思うんですよね。私は。


そんな知識は一切無い、このブログを読んでくださる競馬、アニメファンやパン作りを趣味とする極普通の主婦の方などにもこの本をお奨めしたい理由はですね。
是非本屋さんなどでこの本の152ページから始まる「掟の前で」を立ち読みして頂きたいんですよ。
3ページ強で終わる文章なので即読み終わるんですよね。そして、異様な雰囲気を感じたと思うんですよ。これを読めば「カフカカフカたる所以はこの肌触りなのか。」と感じると思うんですよね。


カフカと言う人は普通の勤め人で、「小説で身を立ててやるぜ!」という野望とは皆無のままチョコチョコと書き溜めていた物を、とある人が「これは売れる!」と発表した事で世間にその作品が知られる様になったんですよ。
で、その人が作品を世に出す時に編集しちゃってるんですよね。小説としてではなく、宗教思想本として。
それを、後の世にカフカ直筆のノートの発見などによって「逆:ディレクターズカット版カフカ」が世に広まるようになり、それに従って訳された物が白水社池内紀訳バージョン。


この丘沢静也氏バージョンは、そこからもさらに飛躍しているというか、一つの小説そのものを一塊の部品として解釈していると思うんですよね。上記の「掟の前で」は白水社版は18段落。これに対して光文社古典新訳文庫版は、何と1段落。改行なし!!2ちゃんなどでたまに見かける改行一切なしでひたすら電波文章を書いている人を見かけたようなキモさ。でも、内容が物凄く深く考えさせられる内容でずっと心に引っかかり続ける。


あとがきでカフカの手稿とモーツァルトの自筆譜のは共通点がある。どちらもきれいで、ほとんど直しがなく一気に書かれている。」と書かれているんですけど、「掟破りの無改行掟の前で」の異様さは、外国語訳の上手さというレベルを超えた「原作の面白さを正確に伝える」手段として最高の成功例と言っても良いのではないでしょうか。実際今まで読んだ「掟の前で」は、親切に読みやすく改行される事で「禅問答っぽい短文で、いかにも『自称プロインテリ(笑)』が喜んでウンチク披露しそうな文章だけど、それがどうかしたの?」という感じで全く印象に残ってなかった(ある意味、カフカを宗教思想家にしようとしたプロートの手の平の上と言うイメージそのままだった)んですけど、この新訳版はガツンときました。本を読むのが好きな人よりも、むしろ音楽や映像が好きな方に是非。
と言う訳で、まずは立ち読みしてみましょう(笑)。絶対買いたくなるから大丈夫。同時に他の翻訳版も読んでみてその異様さを比較してみると良いと思います。「親切って、どうしてこうもエンターテインメントをダメにするんだろう。」と改めて感じる事確実。丘沢版の後に他の物を読むと「CMの後は、いよいよ門番が!!・・・」等とうざいテロップが流れてくるような錯覚を覚えます。


と、言う訳でタイトルに「雪崩式掟の前で」と付けました。流れを止める事無く続く文章。麻枝准の曲のように、四つ打ちに乗せてメロディーの頭の位置をどんどん意図的に前に詰めて疾走感と緊張感を生み出すかのようなこの作品、やはり音楽やアニメの愛好家に是非読んでもらいたいなあ。