怨霊になった天皇


旧皇族:竹田氏の作家、竹田恒泰氏の本です。


800年後の昭和の代にまで影響を及ぼした最強の大魔縁:崇徳天皇の逸話を中心に、悲運の天皇について書かれている本ですが、大部分は史実(もちろん伝承含む)に基づいて各天皇の話が進むのですけど、終章の著者の考えが書かれている部分が一番面白いです。


著者の主張は
「日本は、怨霊を奉り鎮める事でその怨霊を鎮護する神に変え、ここまで繁栄してきた。反抗に対して寛大で『許す』事に拘った世界でも珍しい文化」とし、「数度の国家を揺るがすような怨霊の被害を経験してきた事で、日本は怨霊に対する対処方法が定例化した。そして怨霊の予防、つまり恨みを持って死ぬ人を出さない事が本来の日本の姿。『許す文化』を世界に広げて世界を平和に変える可能性を持っているのが日本」
大まかに言うとこうなります。


それを踏まえてですね。
私が一番面白いと思ったのは「紛争の元は常に兄弟喧嘩」という話なんですよ。大魔縁:崇徳院後白河法皇が起こした保元の乱は兄弟喧嘩。他の、怨霊になった天皇も大抵原因は兄弟喧嘩。神話の世界でも天照大神スサノオノミコト大国主命と八十神も海幸彦と山幸彦も兄弟喧嘩。日本だけでなく、カインとアベルもイシュマエルとイサクもエサウヤコブも兄弟喧嘩。
そして、「兄は親の分身であって信仰を相続し(精神性)、弟は富を築く(物質性)が、弟が家を相続する事で兄が激怒する所が共通」としています。


なるほどなあこれは面白い。
「理不尽な不幸にあって呪いを発動」が怨霊の条件なら、「怨霊になるのは常に兄」という事ですよね。
私はこれを読んで、「世界中の神話が弟(下の世代)を富める者として表現しているのなら、これってつまり経済の大原則だよなあ」と思っちゃったんですよ。自分より下の世代に技術を受け継いで自分達より良い思いをさせてあげる。(上の世代の人間は、自分が若い時にもっと上の世代からそうしてもらっているはずだから)そうやって社会は発展していく。こうしてより豊かな社会を作ってあげて、伝承に時間がかかる精神性は後からゆっくりと受け継いでいくべきである事を示している」と解釈しました。


あとですね。
著者は「許す」ことが大事だと主張しているんですけど(なんか猪木みたいだな)、「許し」はあくまで「呪い」が発動したからこそ起こるべき物じゃなきゃおかしいですよね。(1)理不尽に酷い目に合う。(2)怨霊となり理不尽に酷い目にあわせて相殺。(3)「まあこれでお互いチャラだわな、と和解(許し)」の流れですよね。
今の世の中、「兄」と「弟」、つまり単純に上の世代と下の世代に分けたら明らかに下の世代の方が理不尽に酷い目にあってますよね。人生恵まれっぱなしの老害世代は「そんな事はない!我々は不幸だ!貯金が10億円じゃ老後が不安だから年収200万円の若者からもっと巻き上げろ!!」と主張するんでしょうけど。
で、「弟」は呪いを発動する能力がないんですよ。多分。
そうなると、今理不尽な目にあっている人達は、一方的に酷い目に合いっぱなしで一方的に許す事を求められちゃう事になるんじゃないですかね。「お前の財布の金、全部勝手に使っちゃったけど許せよ。なぜなら日本は許しの文化だから」みたいな話になっちゃってると思うんですよ。そして「許さないとは何事だ!」かえって逆ギレされると。


私はですね。著者が言うほど単純ではないと思うんですよ。今の世の中「理不尽な目に一方的に合いながら、一方的に相手を許さなければならず、しかもその事によって何も得しないし誰からも感謝されない。むしろ侮辱されるような超ウルトラ理不尽を受け入れて消化しなければならない」という未曾有(みぞゆう)の状況に突入しているんじゃないですかね。


で、「一方的に理不尽な目に合いながらも、それを受け入れ、誰も恨まず、許す」事をテーマにしているのは麻枝准の一連の作品ですよね。という訳で次回、angelbeats!中心に今期アニメの話に続く。