職人の世界は「見て覚える」世界なのは確かであるけど、その「見て覚える」に甘えて客観的な視点が恐ろしく抜け落ちているのもまた事実。
僕が初めてパン屋さんとして働いた時はですねえ。
何も知らないのにいきなりポジションを任されて、
それも、「リバースシート」っていう生地を薄く延ばしたり、その生地に油脂を折り込んでパイ生地を作ったりする、生地の状態を感触で理解する経験が必要なポジションだったんですよ。
で、仕方なく「何からやればよろしいでしょうか?」と聞いたらいきなりクロワッサンの生地を投げつけられて
「クロワッサン3折2回!!早く!!いいか!!てめえ職人っていうのは自分で技術を盗んでいくものだ!!教えてもらおう何て思うんじゃねえ!!見て覚えろ!!」
とヒステリックに怒鳴られてですね。
初出勤したその瞬間だから分かるわけが無いんですよ。見たこと無い物を「見て覚えろ」と言われても。
しょうがないから
「すいません、見て覚えたいのでまず見せてもらえないでしょうか」と言ったら
「口答えするんじゃねえ!!」とさらにキレられましたけどね。何がなんだか。

店長としては、職人としての厳しさとかルールを教えるためとか言い訳はあるんでしょうけど、
例えば、入りたての坊やに掃除とか皿洗いとか雑用をずっとやらせて1ヶ月くらい経ってから
「お前横でずっと仕事してたんだから見てて大体分かるだろ?ちょっとやってみろ」とか言うならわかりますよ。それで何にも出来なかったら
「てめえ本当に職人になる気有るのか!!」と怒鳴るのもアリでしょうけど。

その後働いたパン屋さんでも
僕は1ヶ月丸々休み無しで1日短くても20時間は働いていたんですよ。
休憩も取らずノンストップでずっと職人仕事ですよ。
で、ある日一日飲まず食わずで徹夜で働いていたらですね。
人間の3大欲求って食欲、性欲、睡眠欲ですけど、その中で一番強いのは睡眠欲だと思い知らされましたね、作業しながら眠ってしまった(気絶したとも言う)んですよ。

そしたらですね。店長が突然天板を投げつけてですね。
「寝る事ばっかり考えてるんじゃねえ!!」といきなりキレたんですよ。

まあ言葉の意味自体は間違ってないですけどね。
僕は夜中の0:00から毎日働いてその時は20:00頃まで休憩無しで働いていたんですよ。
店長はのんびり朝9:00ごろ来て一日の半分以上は角の方で寝てるんですよ。
しかも毎週2回くらいは「体調が悪いから休む」とかいって出勤してこないし。まあいないほうが仕事が速いから来ないで欲しかったから文句言わなかったけど。

こういうのは職人としての甘えだと思うんですよね。
パン職人って、自分に甘すぎて人が離れていくか、人に甘すぎてなめられて自分が壊れるかどちらかしかないような気がする。

パンについてもっと知りたい方は、詳しくは私のサイトも是非ご覧下さい。→http://www1.ocn.ne.jp/~ribot/