以前私は、とある講習会で飯塚良雄先生の助手をさせてもらったことがあるのですが、その時先生に
「いや〜パンは今ついに28℃の時代になったから」
と言われて「はぁ?」と思ったことがあります。
 一般的にパンの2次発酵は、フランスパンなどハード系は28℃程度、食パンなどのパンは36〜37℃程度にしています。
 ハード系は糖分を添加していないのでそもそも発酵力が弱い、グルテンをあまり作っていないのであまり早く発酵させると切れてしまう、等の理由。
それ以外のパンは「菌が一番活発に活動する温度帯だから」
と言うのが理由で、あまり疑問をもたれずにそのまま来ていると思います。
 冷蔵発酵についての話をどこかでしたと思いますが、イーストは5℃以下の環境だと活動を停止しますが、それ以上の温度だとゆっくりと活動はしています。
 低めの温度で、その分じっくりと発酵させた方が熟成も進むので、美味しいパンになると言うことです。ただしこれはどんなパンを作りたいかによって違ってくるので、基本的にハード系のパンは低い温度で発酵時間が長め、バターロール等は高めの温度で発行時間は短め、と覚えた方が良いです。。発酵時間を長めにとってあげるとその分生地の熟成が進みます。ただし、食感が重くなり皮が厚くなります。逆に時間を短くするとソフトな軽い生地になり、皮が薄いパンになります。パンの目的に応じて変えて見ましょう。また、作ったパンが自分の求めている風味、食感と違う物になった場合はこの知識を参考にしてください。
 ちなみに、イーストは活動する時アルコールを吐き出しますが、低めの温度の時は吟醸酒の香りがします。「え〜っ、私お酒飲まないから嫌だわ」とかいう問題ではなく、要するに「フルーティーな発酵臭」と言うことです。温度が高い状態で熟成が進むと違う香りになります。
また、バターなどが入っている場合は油脂の融点の事も考慮に入ってきます。油脂が分離した状態では風味も味わいも良くないことは想像できるでしょう。故に、クロワッサンなどの油脂を折り込んだ生地は28℃くらいの温度で発酵を取ります。生地が発酵する前に油脂が溶けて流れてしまうと層がきれいに出ないからです。カマに入れる時点でも、アコーディオンを伸ばしたみたいな状態で、発酵した生地の層が油脂で接着されて縦に重なっているような状態で焼成する事によって生地が層になります。
逆にパイは生地にイーストが入っていないので発酵させる必要が無いので、冷凍してあるものを即焼いてしまった方が、凍っている油脂が溶ける前に生地に火が通ってきれいに層が出ます。


 おそらく飽和水蒸気量の関係などで、28度以下だと表面が乾燥する等の問題が出るのではないかと思います。
私のは単なる後付理論で、先生は毎日の研究の結果たどり着いた答えなわけですが。

 養老孟司先生は「化学の答えは常に暫定的なもの」と言ってますが、このように常識とされているものにも常に疑問を持つ姿勢は大事です。
疑問と言っても「相手を疑う」と言うのではなく「自分の、物を見る角度がずれていないかを確認する」と言うことが。

 ちなみに飯塚先生はレーズンパンの権威ですけど、その講習会の時はご自分でご自宅からレーズン種を電車でお運びになられて、「いや〜今日の種は元気良くってあふれちゃったよ〜」とおっしゃっておりました。おそらくその日の山手線は、妙にすっぱいフルーティな香りでいっぱいだったと思います。
先生の先生である増田先生もご来場くださったのですが、両先生とも実にやさしく元気で
「あぁ、道を究めた人というのはこういうものなのだな」
と、お会いできただけでも勉強になりました。

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